僕の向かい側には糸井重里さんがいる。
さっきまでと違って、
1階のお客さんに本を読んでもらおうと
一歩後ろに下がり、
レジのところにいる糸井さんと目があった。
実はさっき上の階で
本の買い方についてスタッフさんにたずねたのですが、
そのスタッフさんが編集者の永田さんで、
僕をレジの方へ誘導してくれました。
この永田さんも僕は大好きで
ほぼ日の中で歴史あるスタッフさんなのですが、
どこか僕と他人じゃないように思える顔立ちをされた方なんです。
僕は恐る恐るレジの方に向かいました。
すると永田さんと糸井さんに挟まれるような状況になり、
「おっ、ボールの、、をお選びになられたんですね」
と糸井さんが僕の持つ本を見て一声かけてくださいました。
僕はもう、緊張のあまり、
「ありがとうございます」と何度も頭を下げていました。
「サ、サイン、、よろしいですか?」
と勇気を振り絞って声を出すと
糸井さんが「もちろんですとも」と笑顔で応えてくれて
ペンを取り出しました。
糸井さんが僕の本にサインをしてくれている間、
きっとほんの数秒だったと思うんですけど、
僕にとってはすごーーーーく長く感じたんです。
そして、伝えなきゃ
と思うことを伝えようと決心しました。
「あのう、、糸井さん、、」
「大好きです」
すると糸井さんから
まるでお決まりの文句のように
「あらそうですか」
「それがねぇ、ぼくも自分のことが大好きみたいなんです」
ほぇーーー。
そこで、自分の中で、
気がふっと抜けたのを今でも覚えています。
そのあとに、
「本当に、ずーーと、伝えたかったのですが、、」
と続けて
ほぼ日を真似ておはよう学級をはじめたことをお許しくださいと伝えたこと、
今度ぜひ教えてくださいと言われたこと、
写真を一緒にとったこと、
逃げるようにお店を出たこと、
が断片的に記憶が蘇りました。
まあ、今回はおはよう学級をはじめるにあたっての
許可をもらっていなかったことのお詫びを伝えに言ったようなものでしたが、
冷静になって考えてみれば
糸井さんにとっては、何にも残らなかっただろし
つまらなかっただろうなと反省しました。
せっかくグローブを開いてくれているのに
僕はボールを投げることもなく、
サインをねだっただけになてしまった。
音楽やってたときだったら
どんなに有名なミュージシャンにも
僕は自信を持って自分の音源のCDを渡していた。
おはよう学級は、見せたり、渡したりするものでなくて、
渡すものをつくる場所なんだということに気付かされました。
糸井さんに渡すものを用意しよう。
用意したものがそのまま与えるものになるはず。
今度はちゃんとキャッチボールしてもらえるように。
一眼カメラを取り出した僕に
糸井さんは「一眼カメラ用の顔ってね、あるんですよ」って。
終始糸井さんワールドに引きずり込まれ、
結局、聞き上手の糸井さんに
ほんの少し、こちらの思うことを勝手に話しただけなのに、
心の中、本当の今の姿をすべてさらけ出されたような、
そんな気持ちを与えられた気がします。
やっぱり糸井さんは与える男だった。
ただ、そこに立っているだけなのに。
でも、キャッチボールってそういうもので、
一方通行では成立しないし、
ボールがあればキャッチボールはできる。
いつまでもファンでいるっていうのも
なんだか図々しすぎるような気がする。
自分で用意したボールをなげること。
それが与える男の第一歩だと思う。
今度会うときまでにきっと。
(おしまい)
14/10/16