〜鈍行列車の旅 その5〜

 

その異変に気付いたのは、最初僕だけでした。
スズメバチが窓際を飛び回っていたのです。

周りは登山話で盛り上がっていたので、
僕は一人でその異変を対処しようとしました。

けど、お茶の入ったペットボトルでハチを窓の外に出そうとすると
ハチは逆上して襲い掛かってくるかもしれないと思ったので、

「は、ハチです! ちょっと外に出すので気をつけてください」
と冷静を装いながら周りの人に伝えました。

となりの登山客の人は女性だったので
ものすごくびっくりしたリアクションを見せてくれたので
僕はもう中腰に立ち上がって
「えい!」
っとかいいながら無事にスズメバチを外に出すことに成功しました。

すると登山客一同から
「お~っ」
っと拍手を受けました。

ぐっと縮まった隣の登山客との距離。

隣の女性とも少しお話することができて
三峰山という山に行くそうで、
後閑駅というところで降りるそうです。

僕も子供たちが待つ新潟へ鈍行列車で帰省しているという旨を伝え
しばし会話が盛り上がりました。

そうこうしているうちに列車は沼田市のあたりを通過していて
この辺は本当に渓谷がすばらしい。

利根川でしょうか。
このあたりは上流になるのでしょうか、
一気に暖かくなったせいか、
雪解けで川の水位があがっているような感じでした。

「ほら、見えてきた!」

登山客が窓の向こうを指差す先に見えたのは目的地の三峰山。

後閑駅に到着し、登山客ともお別れ。
「がんばってください」

出会いと別れ。
やっぱり、旅っていいなぁ。
そう思えた時間でした。

僕の目指す乗り換えの水上駅もあと少し。
この旅も中間地点までやってきました。

(時間は続きます)

12/05/03